近年、障害者の自立を社会的連帯で支援しようという動きが強まり、障害者の雇用促進についての法律の整備が進められてきました。
障がい者の雇用に関する企業の義務は、障がい者雇用促進法によって定められています。すべての事業主は、同法に定められた法定雇用率以上の割合で障がい者を雇用する義務を持っており、これが障がい者雇用率制度と呼ばれるものです。
その結果、障害者の雇用は企業や社会の責任であるとの観点から、事業主は障害者を一定の雇用率で雇用する法的義務を負い、雇用率に達しない場合は所定の納付金の支払いが課せられています。
共生社会の実現、労働力の確保、生産性の向上を目指して、障がい者雇用促進法は平成28年に改正されました。これを受け、平成30年4月から法定雇用率について3つの大きな変更が行われます。
以下、それぞれの変更点を解説します。
障がい者雇用義務の対象として、これまでの身体障がい者、知的障がい者に加えて、精神障がい者が含まれるようになりました。知的障がい者とは18歳までの発達期に生じた障がいにより、理解力や判断力に問題をかかえる人です。これに対して、精神障がい者は人格障がいやアルコール依存症などの物質依存症、統合失調症、うつ病などの人を指します。精神障がい者へのサポートを充実させるため、今回の改正で制度の対象が拡大されました。
法定雇用率は、一定の期間(おおよそ5年)ごとに改正されます。平成30年4月1日から国や地方公共団体を含む全ての事業主区分において引き上げられており、民間企業の場合、今まで2%であったものが2.2%となりました。また今回の改正によって、障がい者雇用の義務が生じる対象事業者の従業員数も変更されました。従来は50人以上の従業員を抱える民間企業に障がい者の雇用が義務付けられていましたが、その基準となる数が45.5人以上となり、対象範囲が広がりました。
今回新たに対象になった事業者も含めて、制度の対象事業者は毎年6月1日時点の障がい者雇用状況を、事業所を管轄する地域の公共職業安定所(ハローワーク)に報告する義務があります。また障がい者の雇用を促し、雇用した障がい者が長く働けるようにするための取り組みを行うため、「障がい者雇用推進者」を設置するように務める必要があります。さらに、法定雇用率は平成33年4月までに0.1%引き上げられる予定です。その具体的な時期については、今後労働政策審議会における議論によって決定されます。この引き上げの際には、制度の対象となる事業主の従業員数が43.5人以上に引き下げられ、より多くの事業者が制度の対象となる予定です。
障がい者雇用促進法は、1週間の所定労働時間が30時間以上の「常用労働者」(1年以上働いてきた、もしくは今後そうであると考えられる労働者)が算定の対象となっています。ただし、パートやアルバイトなどの短時間労働者であっても1週間に20時間以上30時間未満の働いている人に関しては、0.5 人としてカウントして法定雇用率の算定基礎に含まれます。なお、重度の身体的または知的障がいを持っている労働者の場合、週30時間以上の労働者は2人、20時間以上30時間未満は1人と、2倍の数がカウントされます。
精神障がい者である短時間労働者も通常と同様に0.5人とカウントされますが、以下の2つの要件を満たす場合には1人とカウントすることができます。
この特例は、精神障がい者の職場定着率が身体障がい者や知的障がい者に比べて低い状況を考慮したものです。精神障がい者の職場定着率は1週間に20時間から30 時間の勤務の場合が最も高いと言われており、また精神障がい者は採用当初は30時間未満の短時間しか勤務できなくとも、時間が経てば 30 時間以上の勤務が行えるようになりやすいというデータもこの特例を設ける根拠となっています。
障がい者の雇用率の計算において、分母となるのはその企業で「常時雇用している労働者」です。「常時雇用している労働者」には、有期契約で雇用されている労働者のなかで事実上1年を超えて雇用されている、もしくは今後雇用されることが見込まれる労働者も含まれます。この雇用率の算定は会社単位で行います。したがって支店、工場などの複数の事業所を有す会社は、各事業所で法定雇用率を満たしている必要はありませんが、全事業所を合計して障がい者の雇用率が定められた割合を上回らなければなりません。
法定雇用率に到底達しない場合、その企業を管轄する企業の職業安定所長が障がい者の雇入計画を作成することを命じることがあります。また、労働者が100人を超える企業が法定雇用率を満たしていないと、その満たしていない人数に応じて障がい者雇用納付金が徴収されます。この障がい者雇用納付金は障がい者を雇用する義務の代替ではなく、納付金を収めたとしてもその企業は引き続き障がい者を雇用して、法定雇用率を上回る努力をしなければなりません。このような措置を受けた後にも正当な理由なく障がい者の雇用状況が改善されない企業には、制裁としてその企業名が公表されることがあります。